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Rugby World Cup 2019をコーチ目線で振り返る

 南アフリカの優勝で幕を閉じた今回のW杯。興奮冷めやらぬ中、自称"最速"の振り返りイベントとして開催された本イベントは、予想以上の盛り上がりとなりました!  イベントを盛り上げてくれたのは、大会中も多くのゲームでTV解説を務められた、元日本代表で現在はクボタスピアーズアシスタントコーチであるスラッシーこと田邉 淳氏。この日のために主要国のスタッツ(プレー内容に関する統計数値)を用意し、SCJ理事の今田による進行のもと、マニアックな振り返りをしていただきました!

1.南アフリカの優勝要因

「南アフリカのキャプテンや監督も言っていた「Rugby=Hope」という言葉。

一日60件もの殺人事件が起きる南アフリカ。ラグビーが少しでも自国の問題解決になるようにと、多くのものを背負って戦っていた。ラグビーを通して何かを訴える重要性と、その強さ。これは無視できないでしょう。」とスラッシー氏。

 「スタッツも混ぜながら是非詳しく!」もはや進行の枠を超えて一番楽しんでいた今田氏の投げかけにより、数字での解説も進みます。

 「南アフリカはとにかく身体が強いので、ラインアウトやモール、スクラムといったフィジカル優位になりやすいプレーを増やす戦法を取り、それがハマっていた印象です。ボールを手放し、わざと相手に持たせてミスを誘ってボールを奪う、このサイクルをイメージしてましたね。」とスラッシー氏。

「決勝のスタッツを見てもイングランドに比べ極端にパスが少なく、一方でキックが多かった。よって相手のラック数をパスが増やし、それに対し得意のタックルをかまして、ミスを誘いペナルティキックで加点、そんな決勝戦でした。」そうまとめていただきました。

2.日本代表のベスト8要因

「日本のキーワード、ONE TEAM。流行語大賞候補にもなっているみたいですね。実は今回のチーム編成、海外出身の人が約半分の15人もいました。だからONE TEAMになることが重要だと。そういう背景でした。」とスラッシー氏。さらに「ONE TEAM」というサインプレーも存在しているようで、すかさず「どういう時に使うのか?」という流れに。

「特にミスが起きて流れが悪い時に、ONE TEAMで行こう、という声をかける。それを決め事にし、遂行しようというサインになっている。つまり言葉とプレーは一緒であり連動している、という文化を結成当初から徹底してきたんです。」

「またスタッツで見ると、日本はパスが多いです。ニュージーランド、イングランドに次いで第3位。立派な数字ですね。御家芸と言われていました。一方で、初戦と第2戦、ロシアとサモアでは、キックの数が他と比べて多かった。これはなぜでしょうか?」

スラッシー氏の投げかけにより、参加者同時で議論が始まりました。

1.「向こうにボールを持たれたり、カウンターアタックされてもあまり怖くないからでは?」

2.「身体が大きいから背走させて疲れさせるとか?」

3.「両チームともミスが多いイメージなので、誘うため?」

4.「相手にアタックさせて消耗させる作戦では?またアイルランドとスコットランドでは違う戦法を取りたいから、その布石にしたのでは?」

いろいろな素晴らしい意見が出る中、スラッシー氏が見たポイントは気候でした。

「暑かったし湿気も凄かった。ボールキープすればボールが滑るためリスクも増える。だから蹴っていた。皆さんの意見は素晴らしいです。当たっていると思います。体力も削れるし、ターンオーバー等のミスも誘発できていた。」

「相手に対して適切なプランを立て、実行できたから勝てたということですかね」今田氏の投げかけに対し、

「そう。逆に南アフリカ戦は、相手のプランにハマり抜け出せなかった。ラインアウトとスクラムが多く、苦しい結果になった。じゃあ皆さんはこれらをどう減らすか。どうでしょう。話してみてください。」

1.「ミスをしない?」

2.「相手にボールを委ねて、相手ボールの時間を増やす?」

3.「逆に蹴らない・パスをしない、相手にボールを渡さない?」

4.「正確性をあげるか、ミスのリスクを下げるか?」

難問だったため解を出すのに四苦八苦する参加者に対しスラッシー氏は、 「ラインアウトを減らすこと。これはおそらく実現できる。ボールを外に出さない=ディフェンスの工夫。ボールを持たせて向こうのミスを誘うのが大事になりますね。つまり、アンストラクチャー(陣形が整っていない状態:カウンターやターンオーバーなど)を多くしていこうと。ボールインプレーを増やしたい。そのためにはフィットネスが必要。しんどいんですアンストラクチャーが続くと。でも日本はここを強化し自信をつけたから、スコットランド戦までは!がんばれたんです。笑 やりたいことを整理していたからこそのベスト8と言っていいのではないでしょうか。」

そう振り返っていただき、参加者も納得の表情でした。

3.世界の傾向や特徴、その他

「負けはしたがオールブラックスは素晴らしい立ち居振る舞いも多かった。イタリアの選手が、台風を理由に試合ができず自身の出場記録更新が途絶え苦言を呈していた件に対して、『ラグビーは些細なこと。それ以上に大きなことがある。人の安全とか。あなたが記録を作りたいために人が死んだら、あなたは悔やむのでは?』この一言に、オールブラックスの強さを感じました。競技は人生の一部である。こういう考え方は最近多く出てきたがオールブラックスはこれが文化になっているから強い。他にもあります。

ルール1.遅刻しない。

ルール2.スポンサーウェアを着る。

ルール3.オールブラックスマンになれ。(分厚い本があり、そこにいろいろ書いてあるらしいい笑)

「またニュージーランドのセレクションポリシーも素晴らしい。チームファーストじゃないとまず選ばれない。身体能力がすごくても、酒癖が悪かったりしたらカットされる。そして無理強いしない。プロになりたいかどうかは、その人の選択に委ねられる。深追いしないんですね。」

「やはり世界で見ても、自分のチームの強みは何なのかを理解し遂行することが大事であることは間違い無いですね。南アフリカは徹底していた。だから優勝できた。他のチームは、プランを2つくらい用意することも多いのですが、南アフリカは1つのみでしたね。そして、スタッツをどう捉えるかも大事ですね。」とスラッシー氏。

「先にスタッツもイメージしてラグビーしているのか。このラグビーだと勝てないよ、という指標にしているのか?」という質問に対しては、

「そう。ビジネスでも目標立てて進めていくと思いますが、同じですね。パスすればラックが増える。キックをすればタックルが増える。タックルが強いのならキックを増やすし、パスが強みならラックを強化する、とかね。このくらいタックル仕掛けたいから、その分キックもこのくらい増やせるように組み立てよう、とか。」とスラッシー氏。にわかの筆者も思わず納得してしまいました。ちなみにオールブラックスはあらゆるスタッツにおいても高水準で穴が無かったようです・・・

「ポゼッションついては?」の質問に対して、

「結論、勝とうが負けようがポゼッションやテリトリーは関係ないです。」とスッパリ。

「ポゼッションの高かったオーストラリアも、逆にミスが増え、負けています。」

「また、ピークの考え方も大事になってきました。イングランドは、オールブラックス戦がまさにピークでしたね。ピークというのは怪我・体力・メンタル(燃え尽き症候群的な)などをさす感じです。」とスラッシー氏。

4.コーチとして

「スタッツも、それを見てどうするかが大事です。パスなのかキックなのか、何をどう高めてどう勝つのかを組み立てる意味ではとても有効。眺めて一喜一憂するだけでは意味がないです。」とスラッシー氏。

また参加者から、クボタスピアーズでの練習について聞かれると。

「グランド練習自体は1日60分くらいですが、大事にしているのはミーティングです。」とのこと。

1セッションにどれくらい使うのか。 今田氏の補足によると、

「スラッシーさんの評価が高いのは、30分のミーティング・60分の練習のためにあらゆる準備・ハードワークを徹底的に行うこと。」だとか。

「ミーティングでは、チームに文化や戦術、スキルなど、あらゆるものを落とし込める貴重な時間だから、大事にしている。」と話してくれました。さらに、

「コアスキル(パス、キャッチ、真っ直ぐ走る等)の練習にも力を入れています。ポイントなのは、基礎練習は全てやるわけでは無いということ。自分たちのスタイルや高めたいものに合わせて、高めたいコアスキルを見定めて追い込む、これが大事です。」とスラッシー氏。

コーチとしての意見も披露してくれました。

参加者との距離も近く、質問も多く飛び交い活発な時間となった今回のイベント。良い意味でマニアックな内容となり非常に満足度の高いものとなりました!

W杯で火がついたラグビー熱を燃やし続けられるようなイベントを今後も提供し、皆でどんどん盛り上げていきましょう! ご参加いただきました皆様、そしてスラッシーこと田邉 淳様、ありがとうございました!

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