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SCC2019スペシャルインタビュー:奥村武博さん




目次

  • 奥村さんの経歴 〜「今まで」を紐解き、価値観を探る〜

  • プロ意識について 〜目標を達成するための心構え〜

  • 最後に 〜奥村さんが伝えたいこと〜

  • 編集後記

奥村さんの経歴 〜「今まで」を紐解き、価値観を探る〜


ーー 今回カンファレンスへの登壇依頼を受けてみて、奥村さんはどう感じていますか?


自分の経験談や価値観など、話を聞きたいと思ってくださることはとても嬉しく、光栄です。プレッシャーも感じますが、楽しみが勝ることがほとんどですね。


ーー今までは、どういったご登壇が多いのでしょうか?


最近は、高校や大学、スポーツチームなどでの講演も増えてきています。

スポーツから得られる学びや、スポーツや部活動と勉強・ビジネスの共通点について講演することが多いです。


例えば商業高校では、具体的な簿記会計の話を持ち出して、スポーツと数字の関係についてお話しさせて頂いたりしています。


基本的にどこで話す場合も、「スポーツや会計の経験が将来どう役に立つのか」「将来役立たせるためには、今どのように取り組めば良いのか」を考えられるように、話をさせて頂くことが多いです。


具体的に、簿記会計が持つ強みや良さを伝えたいと思っています。

ただ、どこで話そうと、内容はどちらの場合も変わらないですね。


ーー 学生たちの反応はどうでしょうか?


学生からは「部活に打ち込むからこそ得られることがある」「選択肢が広がった」という意見を頂きます。


私の場合、会計士を志してから合格するまで9年間(2013年まで)勉強をしました。現役引退後から会計士に出会うまでの時間も含めると、さらに長い時間になります。

引退後に会計士に出会うまでの紆余曲折を全てお話しすると長くなってしまいますが、やはり、自分が現役を引退後に長く苦労していた時期があるからこそ伝えられる経験談が、皆さんに響いているのではないかと思っています。


ーー 戦力外通告を受けてからの時間は、どんな心境で過ごしていましたか?


プロ野球選手という憧れの場所から、突然の戦力外通告を受けて、さらに翌年には打撃投手も解雇されることになりました。退寮までの期間も限られていたので、球団からの解雇通知から1ヶ月弱で強制的にキャリアチェンジを迫られたわけです。


何をやりたいかを考える暇もなく、何ができるかで考えた結果、安易に飲食業界を選択してしまいました。

そこから先はなかなかうまくいかず、健康保険料が払えなくて区役所に相談に行ったこともありましたね。


ーー なぜその苦しい状況から、会計士を目指すことにしたんですか?


一番大きい理由は、高校時代の簿記の学習経験ですね。

飲食業界という狭い世界しか知らなくて思い悩んでいた中で、あるとき「まず視野を広げなさい」ということで資格ガイドをもらいました。

そのガイドブックの中にあった公認会計士という資格を目にしたときに、自分の中に飛び込んできたような感覚があったんです。その時に瞬発的に決めましたね。


そもそも高校卒業後に受けられる資格が限られていたことに加え、会計士を知った2年後に控えていた受験資格の改正もあり、他の資格に比べると受験ハードルが低くなっていたことも大きいです。受験資格の変更については、もはや縁すら感じましたね(笑)


そしてその後、よくよく調べていくと「公認会計士ができること」にも大きな魅力を感じました。会計士はファイナンスの面からビジネスをサポートする職種です


社会に価値提供する上で「お金」は切っても切れない存在であり、そのお金の面から個人や組織をサポートできることは、スポーツの世界にも通ずる見方だなと思いました

当時、球界改革で東北楽天ゴールデンイーグルスの発足などが話題になりました。それを見て、スポーツもビジネスの枠組みの中にあるんだなと思ったんです。親会社の収益によってはプロ野球選手の活躍の場がなくなるということですね。

もし自分が会計士になればそういった経営やファイナンスのサポートが可能になるということに、大きな可能性を感じましたね。


あとは、プロ野球選手のセカンドキャリアとして新しいロールモデルを作ることができるんじゃないかというワクワクもありましたね。


ーー 23歳くらいからの10年間は、社会人としても大きく成長する期間だと思います。この長くて貴重な時間を勉強に費やすことができたのは、どんなモチベーションがあったからでしょうか?


やはり、色んな意味で「野球への思い」からきていると思います。


野球をしている時の方が辛かったとも思いますし、そもそも9年間勉強だけをしていたわけではありませんでした。

最初は勉強を始めて3-4年間くらいはアルバイトをし、その後TACで正社員として契約をもらいました。

会計士試験の受験勉強をする中で日商簿記1級にも合格できましたし、会計士の勉強は税理士資格にも活用できます。


そういった意味では常に良いポジショニングを取れたと思います。自分がなりたい姿に対してのアクションを長く続けるために逆算できたことも、会計士合格につながったと感じています。

この「ゴールからの逆算」こそがスポーツを経験した人間としての強みだと思っています。


ーー 野球を通しての経験や熱意が、会計士合格に向けた熱量につながっているんですね。他に頑張り続けることができた要因はありますか?


アスリートは、プレーヤーとしての人生にはいつか必ず終わりがきます。

そう考えると、30歳半ばではほとんどのプロ野球選手は引退します。

だからこそ、自分の同期やチームメイトが現役を引退したときに「彼らに胸を張って会えるようになろう」と思っていました。

もちろん自分自身に負けたくないという思いもありましたが、彼らよりも先に引退したからこそ、伝えられることがあるかもしれないという思いはありましたね


ーー これは、プロに限らずスポーツから現役を退くどのフェーズの人にも言えることですね。


「目指していた地点に到達できなかった」というネガティブな見方ではなく、「だからこそ違う可能性を探し出せる。だからこそ伝えられるメッセージがある。」という捉え方ができれば、スポーツの経験は決して無駄にならないですよね。


奥村さんの場合、さらにその自分の経験を「社会に活かすことができる」という考え方であることが本当に素敵だなと感じました。







プロ意識について 〜目標を達成するための心構え〜



ーー 野球選手としても、公認会計士としても、いわば「第一線」を経験した奥村さんですが、プロフェッショナルとして意識していることは何かありますか?


現役時代は、不完全燃焼でした。プロ野球選手になれたことに満足してしまったので、今から振り返ると色んな後悔があります。ただ、だからこそもう一度高いレベルに身を置きたいと思ったのも事実です。「あの時があったから今の自分がある」と言えますね。


ーー 奥村さんが考える、アスリートだからこそ持つことができる「プロ意識」や、自身の経験から「姿勢」について何か伝えたいことはありますか?


自分自身に誇りや責任を持てるかは重要だと思います


アスリートは自分自身の成果に責任を持つ職業ですし、そのプロセスの中で伝えられることがあります。もちろんプロであれば当然ですが、大学体育会やその他カテゴリーでプレーする選手も同様です。


「自分が伝えたいことを背中で示す心意気」は大事だと思いますね。そういった意味で「プロ意識」は「物事に真摯に向き合うこと」から生まれてくるんだと思います。


ーー その中で、ご自身が特に普段から意識していることはありますか?


過去の失敗の反省から「ゴールは常にもっと先にある」という姿勢で生きています

現役時代の慢心から学んだことではありますが、正しい姿勢で取り組んでいれば、何かができるようになったら次の目標が見えてくるはずです。


それに加えて、色々な事象に先入観を持たず「自分の成長のために、吸収できるものはないか」という視点で常に過ごしています。


ーー 後者の貪欲な姿勢は、もともと大事にしていたことですか?


そうですね、こちらは割と昔から意識しています。それこそアスリートだったからだと思いますね。成果主義の世界にいたからこそ「年齢に関係なくうまい人から盗む、学ぶ」という姿勢が身についたのかもしれませんね。


ーー 加えて、公認会計士合格までのエピソードからは、愚直に継続することでキャリア(自分の未来)を切り拓いてきた印象があります。この「継続」について何か意識したことはありますか?


頑張らざるを得ない環境に自分を追い込みましたね。ここでのキーワードは「自己認識」です。

自分の特性・特徴を精確に捉えることができれば、あとはそれを活かしつつ、事前に失敗の予防策を打てます。


そういった意味での環境作りには本当にこだわりました。快適な環境ではなく、少し自分が不便を感じるような環境に身を置いてモチベーションを奮い立たせていました。


そういうと精神力がある強い人間だと思われますが、そういうわけではなく、自分に甘く困難から逃げ出しやすい人間だからこそ、逃げなくなる工夫をたくさんしました。例えば、人前で勉強することで、勉強していない時に指摘されるような環境を選びましたね。


ーー 自分を正しく認識して、ゴールの達成に必要な環境を自分で作っていく。これは本当に重要なことですね。


そして同時に重要なこととしては、やはり、最終的なゴールをどれほど強く望んでいるかだと思います。僕は「公認会計士に合格できなければ、自分に価値はない」くらいに思っていました。そのこだわりはかなり大きかったですね。


あとは、自分の場合、達成するためにハードワークする中で、勉強が楽しくなりましたし。

人間って思い込みすごいなと思いますね。音楽聴かないと気分乗らないとか、そんなことないですからね(笑)


ーー 奥村さんの今までのお話の内容や雰囲気から、失敗を恐れない姿勢も感じます。これは何か原体験があるんですか?


タイガースに入って、関西の文化に触れたのは大きかったと思いますね。

どんな失敗も自虐ネタにして笑いに変えられるメンタリティを身につけられたのはかなり大きかったです(笑)


ただ、考えてみたら野球は打率3割で優秀な選手となるスポーツです。残りの7割は失敗なんですよね。「失敗するほど成功に近づく」というスタンスで、失敗を恐れない。

これは、スポーツに真摯に取り組んでいるアスリートが自然に身に付けることができる力の一つかもしれませんね。


最後に 〜奥村さんが伝えたいこと〜


ーー 最後に、よくある質問かもしれませんが「奥村さんだからできたんじゃないか」「奥村さんみたいにやりたいことが見つからない場合はどうしたらいいのか」という声には何とお答えするか、ぜひ教えてください。


いわゆる「やりたいこと」って見つかってる時点で相当幸せなことだと思います。そもそも「ないからダメ」っていうものではないはずです。

「ないからどうしよう」ではなく、「ないからこそ、探すためにいろんなことをやろう」と考えれば良いのではないでしょうか。


自分が今把握している「枠」の外に自分の可能性が広がっていることも大いにあり得ます。

興味が出たことに取り組んで、後から自分の経験をつないでいく

「経験」としてしっかり残るように、目の前のことに本気でコミットする

この二つがとても重要だと思います。


例えば、「野球」と「会計士」のように距離が遠いものを掛け合わせることで「ひっかかる網」が大きくなるんですよね。


自分が取り組むことの共通項を無理に探すのではなく、ワクワクを信じて取り組む。その代わり本気で取り組む。その積み重ねが、結果的に、自分のキャリアを形作ることになるんだと思います。


編集後記


189cmの長身から放たれる言葉からは、意志の強さと物腰の柔らかさが同時に伝わってきました。プロ野球選手と公認会計士を経験した唯一の存在として、公認会計士としてのお仕事だけでなく、アスリートのデュアルキャリアに関する普及・啓蒙や、実際のサポートもされています。アスリートのデュアルキャリアについては近年かなり話題に上がる一方で、まだまだできることはたくさんあります。

ただ、それは単なる課題の提示ではなく「アスリートだからこそ示すことができる生き様やメッセージがある」という可能性に満ちていることを強く感じるインタビューになりました。

「キャリア」とは戦略や計画だけでなく、目の前のことに本気で向き合ってこそ形成されていく。最終章で奥村さんにお話し頂いた内容こそ、SCJのキャリアコーチングセクションが伝えていきたいメッセージであり、一人ひとりの実現を応援していきたいことだと改めて実感しました。

奥村さん、インタビューのご協力誠にありがとうございました。(文責・溝渕)


こちらの記事は、SCJのfacebookページでも配信しています。こちらも併せてご覧ください。


奥村さんもご登壇されるSports Coaching Conference 2019の情報は、こちらからご覧ください。(チケットはPeatixページからお申し込みください)

また、奥村さんがご登壇されるセッション『アスリートの学び方改革 〜学ぶことで、なりたい自分に近づこう〜』はこちらの画像を参照ください。




奥村武博さんプロフィール












奥村武博 / Takehiro Okumura


㈱スポカチ 代表取締役/一社)アスリートデュアルキャリア推進機構 代表理事/公認会計士 /主な著書『高卒元プロ野球選手が公認会計士になった!

土岐商高から1997年ドラフト6位で阪神タイガースに入団。野村克也監督から小山(正明)2世と称された制球力が武器だったが、度重なる怪我で2001年に戦力外通告を受け現役引退。その後、打撃投手や飲食業を経て公認会計士を目指すことを決意し、2013年に合格。2017年に公認会計士登録。日本で初めて元プロ野球選手から公認会計士となる。

2018年3月には早稲田大学スポーツMBA Essenceを修了。

公認会計士×元プロ野球選手の知見を活かしたスポーツビジネスやスポーツ人材活用のアドバイザリーなどを行うと同時に、自身の経験を踏まえた「デュアルキャリア」の重要性を提唱し、講演等を通じた積極的な啓蒙活動を行う。(Twitterはこちら




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