SCJ Conference 2018 開催レポート 基調講演(後編)
- scj-staff
- 2018年3月29日
- 読了時間: 9分
更新日:2018年4月24日
――教える人が学ぶ。教える人を育てる。
高濱:興味深い研究があります。 私たちの研究によると、親自身がわからない事を自分自身で調べる頻度と、その家庭の子どもの 成績の相関を調べてみると、見事に正比例の関係になるのです。
つまり、親が学ぶという習慣が子どもの学力に一番影響を与えているということが言えます。 これはもうコーチングそのものですよね。コーチ本人が伸び続けているときしか、受けている本人も 成長しないということです。
ノーベル賞の先生に講義してもらっても、その先生が昔の記憶を語っているうちは全く面白くない。 でも「今はね、こういう面白いものがあるんだよね」と、躍動した言葉で言われると、皆ついて行きますよね。「コーチが伸び続ける」というのは、今日のキーワードだと思います。
中竹:まさに今仰っていただいたように、我々スポーツコーチングJapanも「コーチが変わればスポーツが変わる」という理念を掲げています。ではそのコーチを変えるのは誰か、それが「コーチディベロッパー」です。
早稲田大学ラグビー部の監督就任時点で、私は指導者経験がゼロでした。教えたことのない人間が監督になってしまって。誰にも聞けないし、やり方もわからない。選手の方が断然詳しい状態の中、選手にバカにされてしまう。当時は指導しながらも「果たして誰に聞けばいいのだろう?」と悶々としていました。
なので「コーチディベロッパー」が増えればコーチはもっと伸びると確信しています。そしてそれはラグビーだけでなく、スポーツ全体に広がるべき。2019年、2020年(※)でより増えると期待しています。

コーチは「教える専門家」ですが、「学びの専門家」と言われると、そうとは言い切れない。 学ぶ時に邪魔になるのが「プライド、恥」です。
そもそも学ぶこと=「僕、これ知りません」という前提 ですよね。つまりキャリアのある人ほど「教えてください」と言えないし、聞きづらいものです。
私自身の例になりますが、今イングランドで大活躍しているエディー・ジョーンズという名監督と、4 年もの間、一緒に仕事をさせてもらいました。 彼の何が凄かったか、一言で言うと、彼は一番の学び手だったのです。
彼自身、学ばない人がとても嫌いで。打ち合わせのオープニングでは必ず「最近面白い情報あった か」と聞かれます。「最近何を学んだ?」と常に聞かれるわけです。それに応えるべく私自身も常に情報収集という学びを続けていました。
エディーの凄いところは、自ら行動し学び続けている点。敗戦試合の対戦チームのコーチからも話を聞き学びにつなげている。それだけでなく競技を越境し、水泳・サッカーなどラグビーと全く関係ない競技のコーチにも、予定さえ合えばとにかく会いに行き話を聞いていました。
これはまさに、親が「分からない時に調べる」という行為と全く同じ。その結果、彼は今、確実にトップランナーになっています。
(※)2019年:ラグビーワールドカップ2019日本大会開催 / 2020年:東京オリンピック開催
岡島:ビジネスの世界も、良い経営者、良いリーダーには若手のブレーンがいることが多いです。 若手、つまりデジタルネイティブから学ぶことを意識的に実行しています。
私も若手経営者から、LINEのハートマークが古いと注意受けたりします。今の流行はこのハートマ ークです、みたいな。(会場笑) 良いリーダーは自分とは違う視点をもらう技術・環境を意識していると感じます。
教える人って、怒られることないでしょ?自分が叱られることってまずないと思います。その環境は成功体験の罠(負のループ)に入ることになる、実はこの状態、社長と全く同じなのです。誰も叱ってくれない。なので私みたいな人に叱られるのですが(笑)。

中竹:みんな叱られたいから岡島さんのところに行くのですね(笑)。
岡島:そう(笑)。叱られて泣くこともあります(笑)。 でも、こういった違う領域の人からの叱咤でハッとさせられる経験が大事と思います。
――「好き」「楽しい」が原動力
中竹:私の個人的な興味ですが、お二方は業界の中でトップにいながらも、どうして学び続けていられるのでしょうか?
岡島:私はとにかく新しいことが好きなのです。常に自分が先端にいたいという欲求が強いですね。イノベーションは、なるべく遠いものと遠いものを掛け算することで創出されると言われています。
私もオーケストラの指揮者や15歳の起業家と話をしたりして。一見、全然違う領域でも本質は同じだっ たりする経験を通じて日々学ばせてもらっています。
高濱:「今日は良い日だったな」と思える日は?と考えるとき、逆に「滞った日」が嫌だと感じます。
岡島:わかります。「淀んだ水」のような状態。
高濱:自分自身の知識がストレッチしたなぁという感覚が欲しいですね。実は教育が知識のストレッ チそのもので。「このやり方でやりなさい」と言われてただやっている人はダメで、なぜそれをやらな きゃいけないか、と考えることが大事なのです。
「自分が心からやりたいと思ってやっていること」が一番面白いと気づいたら、誰かに教えてもらわなくても伸びる。そう考えると、自分は楽しいから学び続けているのだと思います。
中竹:岡島さんから「好き」、高濱先生からは「楽しい」という言葉が出ました。これはもう本能ですよ ね。理屈で「こうしなければならない」と考えるのではなく、まさに本能です。
岡島:そうじゃないと続かないですよね!

中竹:そうなのです。ですが実際、コーチは「こうすべき」という理屈でコーチングするじゃないですか。ここで大きな違いが出てくると思うのです。
実は一昨年、期間限定でラグビー日本代表のヘッドコーチ代行に就任しました。普通ミーティングでは「今日の練習こうしよう」といった話をするのでしょうが、私は、最初のミーティ ングで全員に「どんなプレーが好きか」とにかくそれだけを語ってくれと話しました。
岡島・高濱:いいですね~!
中竹:そうしたら、その日チームの一体感が変わったのです。例えば、ガンガン相手を抜く選手が「実はタックルや守る方が好きなんです」と話すわけです。キャラと違うじゃないか、みたいな(笑)。
でもそれを話すことで、チームメイトはその選手がタックルするチャンスが来たら「いけ!!」とサポートし、タックルが決まったら「やった!」と一緒に喜び合うことができる。なので私自身、チーム作り をするうえで「好き嫌い」はかなり重視します。
高濱:教育論の基本は「どうやって好きにさせるか」。それはひいきもしないといけない、ということ。 「平等に教える」というのは一見もっともらしいが、実は誰も伸びない。
では伸びるのはどういう時か、それは伸びる可能性のある生徒にスポットライトが当たった時。「お前すげーな!」みたいな。

私は小学生時代、本当に憶病な人間だったのですが、6年生の時の担任の先生が「お前はちょっと 違う」と言うわけです。「学校の勉強簡単だろう?」と言われ「はい!」と答えると「ふざけんじゃね ぇ!」と言われて(会場笑)。
何かと言うと「上には上がいる、全国を見据えて学校の勉強以上のこと を自習して持ってこい!」となるのです。
そうしたら自習するじゃないですか(会場笑)。それで持って行くと先生は「よし!」というだけ(笑)。だけど凄く勉強しました。一生で一番勉強しましたよ。
面白かったのは、40年経って当時のクラスメイトに会うと「今だから言えるけど、俺、先生にひいきされていた」と言うわけです。「え?」と(笑)。
よくよく聞くと自分と同じことをその彼も言われているのです(会場笑)。「お前の水泳は凄い。全国目指せ!」とか。
要するにクラスの40人全員に同じように言っているというわけなのです(笑)。だけどこれぞまさに教育ですよね。つまり全員にひいきするということを上手にやれるかどうか。それが教育の肝だと思います。
中竹:素晴らしいお話を本当にありがとうございます! では最後にお二方から激励のメッセージをいただけますか。
岡島:スポーツはルールが明確、勝敗が決まり、試合データがしっかり残り、そのデータで選手の成 長も計測できる。それを考えると、実は私たちビジネスサイドは、スポーツから学んでいることがたくさんあると思いました。
今日この後の分科会でも皆さんと意見交換させて頂きながら、私もまだまだ学びたいと思っています。ありがとうございました。
高濱:ここ最近、私自身もスポーツにすごく注目しています。スポーツ選手は特定領域を極めている人。ただスポーツ選手は伝えることが得意でない人が多い。
そういう意味ではスポーツしかやっていないという壁を取っ払うためにも、スポーツと国語のようなセッティングで小学生の頃からしっかり鍛えることをすれば、さらに伸びると感じています。
スポーツは人としての軸・芯を作るもので、頑張り屋さんも育ちます。でもそれもコーチング次第。今後の取り組みに期待しています。今日はありがとうございました。

※登壇者
◆中竹 竜二 氏
一般社団法人スポーツコーチングJapan 代表理事/日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター/株式会社TEAMBOX代表取締役
早稲田大学ラグビー蹴球部主将を経験し、レスター大学大学院社会学部修了。
三菱総研でのコンサルタント経験を経て、2006年に早大ラグビー蹴球部監督に就任。同部を2度の大学選手権制覇へ導く。
2010年より日本ラグビー協会コーチングディレクター、2012年よりU20日本代表ヘッドコーチを務める。
2014年、株式会社TEAMBOXを創業し、スポーツマネジメントのエッセンスをビジネス界に紹介した。2016年春には、ラグビー日本代表チーをヘッドコーチ代行として率いる。近年ビジネス界で話題となっている概念「フォロワーシップ」の提唱者。
◆高濱 正伸 氏
花まる学習会代表/NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長
1993年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した、小学校低学年向けの学習教室「花まる学習会」を設立。
1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。父母向けに行なっている講演会は毎回、キャンセル待ちが出るほどの盛況ぶり。
障がい児の学習指導や青年期の引きこもりなどの相談も一貫して受け続け、現在は独立した専門のNPO法人「子育て応援隊むぎぐみ」として運営している
◆岡島 悦子 氏
株式会社プロノバ代表取締役社長
経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。
三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2002年、グロービス・グループの経営人材紹介サービス会社であるグロービス・マネジメント・バンク事業立上げに参画、2005年より代表取締役。2007年、プロノバ設立、代表取締役就任。
アステラス製薬株式会社、株式会社丸井グループ、ランサーズ株式会社、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社リンクアンドモチベーションにて社外取締役。世界経済フォーラムから「Young Global Leaders 2007」に選出
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